放射線には下記の4種以外にもX線や中性子線といった多くの種類があります。その中でも人々の生活の中で特にがんの原因となり得る放射線は宇宙放射線(宇宙線)・α線・β線・γ線の4種類です。
宇宙線はその名が示す通り宇宙の彼方から地球へ降り注いでくる荷電粒子、またはその荷電粒子と大気が反応して生じた別の荷電粒子(二次宇宙線)であり、地球上のどこにでも降り注いでいます。宇宙線は非常に透過性が強く、高山や飛行中の航空機内では強度が上がり、地下深くでは強度が下がりますが、厚さ1mの鉄でも10%しか遮蔽できません。宇宙線被曝によるがん死者数は人口1億人あたり毎年2,000人程度と試算されています。
α線の正体はヘリウム4の原子核です。軽い原子核の中で際立って安定な原子核は陽子2個と中性子2個のヘリウム4であり、このためヘリウム4は宇宙に極めて多く存在し、ウランやトリウムのような重くて不安定な原子核が軽くなる反応ではほとんどヘリウム4の原子核が放出されます。α線は透過性が非常に弱い反面、衝突したときに短い範囲(水の場合50μmほど)にすべてのエネルギーを落としてしまうため、α線が直接生物の細胞に当たると、同じエネルギーを持つ他の放射線と比べて20倍の確率でがんを発生させてしまいます。
β線の正体は電子です。軽い原子核では陽子数と中性子数が等しいか少し中性子が多いものが安定しますが、原子核が大きくなると陽子間のクーロン斥力のため陽子の多い原子核が不安定になり、中性子が陽子よりかなり多い原子核が安定になります。ですが同時に中性子が多すぎてもまた、原子核の形を保てなくなり不安定になります。原子核の中の中性子が多すぎて不安定な場合、中性子から電子を放出して陽子に変わる反応を行い安定な原子核に変化していきます(このときにニュートリノという素粒子も放出されますが、ニュートリノは物質とほとんど反応しないので、本解説では省略します)。このとき放出されてくる電子をβ線と呼びます。β線はα線ほどではないものの透過性が弱く、生物に対する影響もα線ほど高くありません。空気中を数m、アルミ板を数mm、プラスチック板1cm程度で遮蔽できます。
γ線の正体は可視光やX線よりもさらにエネルギーの高い光(電磁波)です。α線やβ線を放出した原子核はほとんどの場合中途半端なエネルギー状態になり、ある程度安定な状態になるために余分なエネルギーを光の形で放出します。原子核のまわりにいる電子が出す光をX線と言いますが、このように原子核の中から出てくる光をγ線と呼びます。γ線はα線やβ線と比べて透過性が強く、遮蔽には鉄や鉛、コンクリートなど厚い壁を使用します。