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日本で実施されたラドン濃度測定の大規模研究 その致命的な欠陥

「我が国で実施された屋内ラドンに関する調査を踏まえた屋内ラドンへの対応の在り方について」

UNSCEARの報告やWHOの勧告が出た直後に日本でもラドン濃度を測定する大規模研究が数件実施されました。それらの研究は原子力規制庁の放射線防護課が令和5年7月28日に発表した「我が国で実施された屋内ラドンに関する調査を踏まえた屋内ラドンへの対応の在り方について」(PDFファイル)の中で纏められています。そのすべての研究に次の2点の致命的欠陥があったと弊社は考えます。

第一は、UNSCEAR2008の報告を正確に理解していなかったことです。

ラドン濃度の不均一はウラン鉱山付近で起きていると考えたため、日本各地の多数の住宅にラドン測定器を設置しましたが、各住宅1箇所でした。UNSCEAR2008は一つの部屋の中でラドン濃度の不均一が起きていると報告しているのに対し、それが理解されませんでした。本来なら一部屋の複数箇所でラドン濃度を測定しなければいけませんでした。

第二は、アメリカで使われたラドン濃度測定器をそのまま輸入して使用したことです。

検出器についての詳細は別ページで詳しく説明しますが、この大規模なラドン濃度測定研究の結果は、測定したほぼ全ての場所でラドン濃度は同じというものでした。この研究にはアメリカ製の測定器を使ったことも含めて多くの間違いがあり、全ての測定値が一致すべくして一致してしまった研究となっていたのです。

この研究とその結果は放射線の専門家に広く知られるようになり、日本の政策決定者や助言すべき放射線の専門家の大部分が「日本には大規模なウラン鉱山がないためラドン対策不要」と思い込みました。2008年以降に間違った方法と間違った測定器で大規模なラドン濃度測定研究を行い、当たり前の結論ですが、日本にラドン濃度の異常はないのでWHOの対策は不要と報告した実験グループは、日本人一千万人を殺す第二のA級戦犯です。そして第一のA級戦犯の誤った日本語訳と、第二のA級戦犯の誤った測定を信じて、ラドン対策不要という嘘を世間に広めたほとんどの放射線専門家がB級戦犯となってしまいました。

そもそもの経緯として、室内のラドンガスの危険性が指摘された切っ掛けはウラン鉱山の有無によるものではなく、南ヨーロッパにおけてエアコンの普及しだしたことです。南ヨーロッパの夏は地中海性気候でサハラ砂漠のように高温で雨は降りません。かつて中部ヨーロッパの夏は最高気温が30度を超えることは稀で、エアコンはほとんど普及していませんでした。1990年代に偏西風の蛇行で中部ヨーロッパでも南ヨーロッパのような暑い夏が訪れ、エアコンが急速に普及しました。すると気密性の高い建物が急増し、そのことが2008年の国連科学委員会報告につながりました。新しいウラン鉱山が発見されたからではありません。

米国はUNSCEAR2008の前のUNSCEAR2006が発表された段階ですぐに屋内ラドン濃度の基準を決定し、基準を超える建物は速やかに改修を行いました。このためラドンが原因の肺がん死者数は増加しませんでしたが、我が国では15年間議論をするだけで有効な対策は全く実施されませんでした。先ほども書いたように、大部分の放射線専門家がUNSCEAR2008を誤解してウラン鉱山近傍にラドン濃度の高い住居があると考えたため、普通の住宅の室内で重いラドンが下部に蓄積するという考えが出てきませんでした。この年月の間にラドン濃度が非常に高い住宅や事務用・商用の高層建築物が作られてしまいました。

エアコン普及以前の住宅は夏の暑さ対策として高い通気性を持っていましたが、1970年代になって(当時は暖房機能がないのでエアコンではなく)クーラーが普及し始めると、従来の通気性の高い部屋にクーラーを設置するので冷房効率が悪く高い電気代が必要でした。その後エアコン使用を前提とした高い気密性の建物が新築されてきました。すると一つの気密ブロックで、ラドンは下部に集まり上部はラドンが薄くなることが発見されました。2008年は世界でエアコンの普及が本格化した時期なので、地下室とエアコン使用を前提とした建物では適切な空調を使うように各国政府に報告したのです。

ここで日本のタバコを原因とする肺がんについて検討します。ある年のタバコを原因とする肺がん死者はその年より20〜30年前のタバコ消費量、正確にはタバコに含まれる発がん物質の摂取量に比例します。1950年以前のタバコ消費量のデータはありませんが、1950年から1970年でタバコ消費量は2倍になりました。1970年の肺がん死者数は1万人でラドンが原因の死者数が6千人ならば、1970年のタバコが原因の肺がん死者数は4千人程度でしょう。2000年のタバコ消費量は1970年の1.4倍になりました。1950年から2000年でタバコ消費量が2.8倍になったので、1970年から現在までにタバコが原因とする肺がん死者は11,200人となるはずです。ところが1970年から2000年までの間に販売されたタバコの銘柄が大きく変わりました。世界ではタバコの広告を禁止したりタバコのパッケージにタバコの危険性を視覚的に訴える写真などを貼ることを義務つけて、タバコの消費量は激減しました。日本では「健康のためタバコの吸いすぎにご注意下さい。」などの優しい注意書きを入れるだけでよかったので、1人あたりのタバコの消費量は減りませんでした。でも発がん物質の少ないタバコが好まれるようになり、「ライト」や「マイルド」などの形容詞がついたタバコがよく売れました。銘柄ごとの販売量やニコチン含有量のデータが完全ではないので推定値ですが、1970年から2000年までの間に消費されたタバコに含まれる発がん物質の量は変化なしか若干減少したものと思います。以上のことから弊社は現在タバコを原因とする肺がん死者は5千人程度と推定します。

アメリカではマリファナによる肺がんが多数派で、2020年1月の米国環境保護庁の声明では、ラドンが原因の肺がん死者は1年間で21,000人、人口1億人あたり6,000人程度だと報告されました。

以上のことから、人口1億人あたりのラドンを原因とする肺がん死者数は我が国が米国の10倍にもなってしまっています。米国は2006年から室内ラドンの対策を始めています。我が国が明日から対策を始めても2040〜50年まで肺がん死者数の比はどんどん大きくなるでしょう。

参照:
原子力委員会「UNSCEAR2008年報告書」(日本語訳・PDFファイル)
放射線の影響に関する国連科学委員会「UNSCEAR 2008 REPORT VOLUME I」
原子力規制庁長官官房放射線防護グループ放射線防護企画課「我が国で実施された屋内ラドンに関する調査を踏まえた屋内ラドンへの対応の在り方について」(PDFファイル)

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