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ラドンとホルミシス効果について

目次
少量の放射線が健康に良いと言われているのは本当か?

根拠1:広島長崎の被爆者の健康調査はホルミシス効果を完全に否定

根拠2:電力中央研究所が20年間にわたってホルミシス効果を証明しようとしたが、できなかった

根拠3:国内では毎年数十万人が低線量被曝しているが、ホルミシス効果は全く見られない

根拠4:そもそも免疫系でがんは治せない

結論:ラドンは人体に悪影響を及ぼすだけ

少量の放射線が健康に良いと言われているのは本当か?

弊社がラドンとその放射線被曝の影響について話をすると「放射能泉のラドンですか?」とよく聞かれます。

ラドンを含有成分として含む温泉は放射能泉(現在では単純弱放射能泉、単純放射能泉、含放射能◯◯泉など)と分類され、1978年にミズーリ大学のトーマス・D・ラッキーが提唱したホルミシス効果と呼ばれる『少ない放射線被曝は免疫系を刺激して健康に良い影響を与える』という仮説に基づき、血行促進や循環器障害の改善、そしてがんの予防などの効能が信じられています。
日本国内にはこれらの効能を謳い文句にした放射能泉がいくつか存在し、インターネットを検索すれば同様の効果を期待したラドン発生器やラドンを含む温泉水などが販売されております。

ですが弊社の見解は別ページでも解説した通りラドンは肺がんの主原因であり、がんの発生率は放射線被曝に比例するものです。
そのためホルミシス効果やそれに付随する効能への考えを以下の根拠により断固として反対します。

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根拠1:広島長崎の被爆者の健康調査はホルミシス効果を完全に否定

広島と長崎の原爆投下後に生き残った人に対して日本政府は放射線影響研究所を通じて一人ひとりの被曝量を推定しました。そして1985年まで健康調査を継続し、1991年に国際学術組織である「国際放射線防護委員会(ICRP)」に「被曝量と発がん率の増加分は比例する。1シーベルトの被曝で発がん率は10%増加する」と報告し、了承されました。この30万人以上の被爆者を対象とした健康調査報告によって、ホルミシス効果は完全に否定されています。

現在世界の全ての国で被曝量と健康被害が比例することを前提に放射線防護対策が採用されており、これをLNT(しきい値なし直線)仮説と言います。いまだに一部の科学者がこれに異を唱えていますが、現時点では科学的な根拠が乏しいと言わざるを得ません。

それにもし本当にホルミシス効果が実在するのであれば核兵器を使いたい軍隊にとって好都合であることから、核保有国の軍上層部が主導となって大々的に発表するはずです。核兵器の攻撃目標だった場所において敵国軍隊が壊滅してもその周辺地域の民間人には健康を良くする効果があるなら、核兵器使用に対する人道的非難は小さくなります。また核兵器の攻撃目標の中には地理学的に重要な地点でそこを占領することはその後の軍事行動が有利になるという側面もあります。軍隊幹部は原爆投下直後に出来るだけ早くそこを占領したいと考えるでしょうが、一般兵士は嫌がります。この場合もホルミシス効果は兵士の説得に有効です。アメリカ軍がホルミシス効果を研究したことは常識ですが、ホルミシス効果を肯定する証拠は全く発表されていません。そういう意味では良心的と言えます。

参照:
国際放射線防護委員会(ICRP)
ICRP Publication 60

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根拠2:電力中央研究所が20年間にわたってホルミシス効果を証明しようとしたが、できなかった

ホルミシス効果は提唱以降、提唱者のラッキー氏を含めてそれを肯定する科学論文が全く発表されていません。
国内でも電力会社が中心となってホルミンス効果を証明しようとする試みがありました。電力会社にとってはホルミシス効果が存在すれば原子力発電所の運転に地元の理解が得られやすくなります。8電力会社が共同で運営する電力中央研究所では1993年から14研究機関にホルミシス効果を実証する研究に資金提供を始め、さらに2000年からは理事長直轄の低線量放射線研究センターを設置し、ホルミシス効果を実証しようとしました。
しかしその研究結果でホルミシス効果を証明することはできず、2014年に「ホルミシス効果を低線量放射線の影響として一般化し、放射線リスクの評価に取り入れることは難しい。」という結論を出しました。
電力中央研究所のような豊富な人材・潤沢な研究資金・高度な分析装置を持つ研究所で20年間以上研究を続けてホルミシス効果が実証できなかったのですから、日本中の誰もが研究しても実証できないでしょう。すなわちホルミシス効果は存在しません。

参照:
電力中央研究所 原子力技術研究所 放射線安全研究センター
放射線ホルミシス効果に関する見解

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根拠3:国内では毎年十万人規模の放射線業務従事者が低線量被曝しているが、ホルミシス効果は全く見られない

日本には放射線科の医師・看護師や放射線技師、空港などでの保安検査係員、工場などでの非破壊検査職員など、職業上の被曝を伴う放射線業務従事者が10万人程度います。それらの方々は放射線業務従事者特有の定期健康診断と業務中の放射線測定器の携帯が義務付けられており、被曝量と健康の関係が把握できるようになっていて、自然放射線レベル(2.4mSv/年)を超える年間追加被曝が50mSv(5年間で100mSv)を超えないように管理しています。

これらの放射線業務従事者に対する健康診断において、低線量被曝におけるわずかながんリスクの上昇こそ認められていますが、他の発がん要因と比べて桁違いに小さく、特異に健康が悪化したという報告もなければ、逆に健康が良くなったいう報告もありません。つまりホルミシス効果は全く観測されませんでした。

日本ではホルミシス効果など存在しないことを前提に、放射線業務従事者の健康管理が放射線障害防止法に基づいて行われています。

参照:
原子力規制委員会
表8 放射線管理状況報告書集計結果(令和4年度)

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根拠4:そもそも免疫系でがんは治せない

ホルミシス効果を「少量の放射線によって人体の免疫機能が活性化する」と解釈する方もいらっしゃいますけれども、これも誤りです。人体の免疫機能を担う免役細胞(特に後述のT細胞、B細胞、NK細胞などのリンパ球)たちは放射線感受性が高い(放射線に弱い)のに加え、それらが生み出される骨髄や胸腺もまた放射線感受性が高い組織です。放射線を浴びたリンパ球はアポトーシスによる細胞死を起こすことがよく知られており、しきい値こそありますが、全身で250mSv以上の外部被曝を1度に浴びたときにはリンパ球の数に減少が確認されています。しきい値以下の低被曝量では特別人体のリンパ球が減少したという報告は為されてませんが、逆に増加したという有意な報告もありません。また、それらの検証実験の多くは放射線の透過性の高さや全身被曝モデルの検証のしやすさから主にγ線やX線を用いたものばかりであり、ラドンやその娘核種のようなα線源を用いた物ではありませんでした。つまり低線量の放射線、特にα線源による人体の免疫機能の活性化(免疫細胞の増加等)という現象を実証した観測がされたことは無いのです。

次にそもそもよく誤解されることですが、がんという病気は細菌やウイルスによる病気を治す時のように免疫系によって対応できるものではありません。

免疫系のしくみを簡単に解説すると。細菌やウイルスが体内に侵入した時、初期対応として細菌を食べる好中球やマクロファージ、侵入者の情報を指令役のヘルパーT細胞に伝える樹状細胞、常時体内を巡回して独自の判断でウイルスに取り付かれた細胞を破壊するNK(ナチュラルキラー)細胞などによって行われる自然免疫と、樹状細胞から侵入者の情報を受け取ったヘルパーT細胞の指示の下、侵入者の力を弱めたり目印を付けて好中球やマクロファージの働きを補助したりするための抗体を生み出すB細胞、ウイルスに取り付かれた細胞をNK細胞よりもさらに選択的に破壊するキラーT細胞によって行われる獲得免疫があり、この2段階の仕組みによって生物の身体は守られています。

これらの免疫機能で共通していることは「表面タンパク質の化学的な成分の違いによって『自己の細胞』であるか『自己でない侵入者』を区別している」点です。細胞の外で増殖する細菌が自己の細胞と成分が異なっているのはもちろんのこと、取り付かれたウイルスが内部で増殖する細胞もまた細胞膜の成分が正常な細胞とは異なるものに変質するため、その化学的な成分の違いによって判別することができます。

しかし正常な細胞から突然変異で変化したがん細胞の場合は、この免疫機能が上手く働かない状況が発生してしまします。

別ページでも解説しましたが、がん細胞の正体は「細胞分裂機能のDNAが突然変異して細胞分裂の制御を失い、勝手に増殖し続けてしまう細胞」に過ぎません。正常な細胞とがん細胞では細胞膜の表面たんぱく質の成分にほとんどの場合違いが見えず、例外的に細胞膜の成分に突然変異の明確な影響が現れるケースを除けば、化学的な外見上の違いで区別することは出来ません。つまり普段は細菌やウイルスの脅威から身体を守っている免疫細胞たちは、がん細胞と正常細胞を判別することが出来ず、がんを治すことは出来ないのです。

「少量の放射線によって人体の免疫機能が活性化する」とするホルミシス効果は、低線量の放射線は免疫機能に影響を与えられないということと、免疫機能ではがんは治せないということの2重の意味で誤りであると言えます。

特徴 免疫系の働き
細菌 細胞外で増殖する。 細菌の細胞壁を検知して、好中球やマクロファージによる分解(自然免疫)とB細胞が生み出す抗体(獲得免疫)によって除去する。
ウイルス 細胞に取り付いて増殖する。 ウイルスの取り付いた細胞ごと、異常を感知したナチュラルキラー細胞による破壊(自然免疫)とヘルバーT細胞の指示を受けたキラーT細胞による破壊(獲得免疫)によって除去する。
がん細胞 細胞の遺伝子が突然変異を起こし、細胞分裂の制御を失って勝手に増殖する。 特別なケースを除けば、がん細胞と正常細胞の区別することが出来ず、がん細胞を除去することが出来ない。

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結論:ラドンは人体に悪影響を及ぼすだけ

自然界に存在するものは全て健康に良いものばかりだという迷信があるようですが、自然物でも人間に有害なものは、例えば病原菌や火山ガスなどいくらでもあります。ラドンもその一つです。

特にラドンが出すα線はDNA修復の機能が働きにくい二重螺旋の2本鎖切断を引き起こしやすいため、α線がDNAに当たれば当たるほどがんになるリスクは高くなります。

地球内部から出てくるラドンを止めることはできないので、自然界では世界中どこでもほぼ同じ濃度のラドンが存在し、人口1億人あたり毎年6,000人が肺がんで死ぬことを止めることはできません。ただ人口的にラドン濃度の高い空間を作って、多くの人が肺がんで死ぬのは避けなければなりません。日本ではエアコンが普及しているので気密性の高い部屋ばかりです。ここで換気口を天井に開けると、ラドンは床付近に溜まります。日本では昨年75,600人が肺がんでお亡くなりになりました。

学問の世界では完全に否定されたホルミシス効果ですが、インターネットで検索するとホルミシス効果が存在することを前提とした商品が山盛りです。その全てが偽物です。例えば体温上昇による発汗効果を謳う商品がありますが、もしその謳い文句にように体温が1℃上昇するために必要な放射線を浴びた場合、その人は1日以内に確実に死亡します。体温が0.01度上昇した場合でも1ヶ月生きていたら奇跡と言われるでしょう。

ラドンはヘリウムと同じ不活性ガスであるため水に対して化学的な反応では溶けません。ラドン原子が水の中に入り込んで水分子間の物理的な相互座用によって保持される状態を溶解と定義しているだけで、他の物質のように化学的にイオン化して溶解しているわけではないのです。そのため水中のラドンの揮発性は高く、ラドンが地下深くから地上に噴き出す途中で地下水と出会って、ラドンと水が同じ場所で別々に噴き出しています。そのため温泉水に溶け込んでいるのはラドンではなくラドンがα線を出した後に生じるポロニウムです。弊社は胃がんの原因はポロニウム218、大腸がんの原因はポロニウム214、そして証明は困難ですが乳がんや膵臓がんなどほとんどのがんの原因はポロニウム210だと考えています。そのため温泉水を直接口から飲むことも危険だと言えます。

我々のまわりにはラドン由来のα線も含めて様々な自然放射能が存在します。その強さは、人口1億人当たり毎年12,000人ががんで死ぬことに相当します。

日本ではゆとり教育によって物質を構成する最小単位が原子とされ、99%以上の日本人は原子核や放射線を全く学ぶことなく学校教育を終えます。一般人の放射線に対する知識不足に付け込んで、悪徳業者は詐欺商品を売りつけます。不必要な被曝によってがんで死ぬ確率を自ら高めることはやめましょう。

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