部屋の気密性とラドン濃度
室内のラドン濃度は部屋の気密性と換気の方法で大きく変化します。
ここでは代表的な気密性の室内のラドン濃度を解説します。
図1Aはクーラーが普及する以前の建物を表しています。
クーラー普及以前の日本の建物は夏の暑さ対策として建物内を空気が流れるような構造になっていました。
大きな窓はほぼ常に開けたままで簾・よしずなど通気性の高い物を置いて室内に風が入るようにしており、床下や天井裏も風が流れる構造でした。
もちろん室内のラドン濃度は天井付近でも床付近でもどこでも屋外とほぼ同じ値でした。
1970年頃からクーラーが普及してきました。その頃のクーラーは大卒初任給の10倍程度だったので、一家で一台が普通でした。
そして多くの場合はダイニングキッチン(以下DKと略す)に設置されました。DKの隣には和室があるのが一般的で、DKと和室の間は襖など大きく開けられて風通しの良いものが使われました。
DK+和室と廊下など他の空間との間仕切りは隙間の少ない扉が一般的で、DK+和室で気密性の高い一つのブロックとなっていました。
家族は夕食ができるまで和室で過ごし、夕食後も和室でテレビを見たりして一家団欒の時間を過ごしました。
ただしクーラーは冷房だけなので暖房はガスストーブや灯油ストーブが一般的でした。そのため随時窓を大きく開けて換気することが必要で、またストーブをつけたまま眠っても酸欠事故にならないように、サッシ窓に換気用小窓をつけたりドアに通気口を開けたり完全に密閉しない窓枠を使っていました。
図1B‘はそのような30〜50年前のDKを描いています。なお室内でDK+和室以外の場所は図1Aのように夏場に窓を開けることが想定されており各部屋の気密性は低い場合が大半です。
クーラー時代では気密性があまり高くなくて、床付近のラドン濃度は屋外の3倍程度・天井付近のラドン濃度は屋外の1/3程度です。この値は我が社の測定結果です。
図1Cはエアコンが普及して以降の建物を表しています。
エアコンは冷房と暖房が可能です。会社の事務所などでは火事の心配がないので1970年代から普及しましたが、個人の住宅でエアコンが普及するのは1990年頃からです。室内の酸素を消費しないので換気は最小限で良く、冷暖房の効率を高めるため気密性は可能な限り高めました。図1Cではエアコンは天井の平らな装置で示し、正面の窓ははめ殺しの一枚ガラスで側面の窓は2重窓です。
ラドンは密度の大きな気体なので、密室では床付近のラドン濃度は高く、天井付近のラドン濃度は低くなります。
エアコン時代の室内では気密性が最高レベルになっており、床付近のラドン濃度は屋外の10倍・天井付近のラドン濃度は屋外の1/10となります。ただしこれはエアコンと換気装置を共に止めた時の値であり、UNSCEAR2008で参照されています。エアコンを作動させると室内の空気は攪拌されますが寝室の睡眠時は微風モードとなり攪拌はわずかとなります。
・クーラー普及以前では建物の気密性が低く、室内のラドン濃度は床付近でも天井付近でも屋外と同じ。
・クーラー普及時は建物の気密性がさほど高くなく、室内のラドン濃度は床付近で屋外の3倍、天井付近で1/3程度。
・エアコン普及以降は建物の気密性が高まり、室内のラドン濃度は床付近で屋外の10倍、天井付近で1/10となった。
換気装置とラドン濃度
UNSCEAR2008ではエアコン設置を前提とした部屋に住み続けると1年間で肺がんになって死ぬ人が人口1億人あたり5万人にもなると指摘しています。
これはその部屋を立ち入り禁止区域に指定する基準の50%に当たるため、適切な換気装置が必要であるとの警告を発しました。しかし、残念ながら日本の厚生労働省はこの報告を正しく理解できなかったようで、何か対策を取ろうとした痕跡は残っていますが最終的には放置しました。国内の住宅メーカーや空調機器メーカーもこの報告を無視し安価な換気装置の設置を続けてしまいました。
ここからは換気装置、特に排気口の設置場所と室内のラドン濃度の関係を考察します。なお吸気口の位置はラドン濃度に大きな影響を与えないので、以下では吸気口は常に天井にあります。上記のエアコン時代の部屋で換気装置を作動させます。
図2Aは排気口も天井にある場合を表しています。床や壁に穴を開けるのは高価で、天井裏の空間で吸気パイプと排気パイプを密接させて熱交換を行うことが容易にできるので、日本のほぼ全ての建物がこの換気方法を採用しました。
ところがこれは室内のラドン濃度を高めると言う点で最悪の換気方法です。
天井付近のラドン濃度が低い空気を排気して外気を吸気しますので、室内の平均ラドン濃度は必ず上昇します。そしてこの上昇は吸気と排気のラドン濃度が一致するまで続きます。一致した時は、天井付近のラドン濃度は屋外と同じで、床付近のラドン濃度は天井付近の100倍すなわち屋外の100倍になっています。
このような部屋で24時間365日暮らしていたら、1年間で人口1億人あたり60万人が肺がんで死にます。実に立ち入り禁止区域の基準の6倍の被爆量となります。
図2Bは床付近のみに排気口を開けた場合を表しています。実際には床や壁に穴を開ける必要はなく、天井の排気口から床までパイプを下ろして床にパイプの開口部を開けた場合も同じ働きをします。そして天井ではパイプと既存の排気口を隙間なく結合します。
床付近のラドン濃度の高い空気が床付近の排気口から排気され外気が吸気されるので、室内のラドン濃度は必ず低下します。そして平衡状態では床付近のラドン濃度は屋外と同じ濃度となり、天井付近のラドン濃度は屋外の1/100となります。この場合のラドンによる被曝はがん死者が1年間で人口1億人当たり6,000人となる量に相当します。
図2Cは天井付近と床付近の2ヶ所に排気口を開けた場合を表しています。ただし2ヶ所の排気口の大きさは同じとします。この場合に十分時間が経てば床付近のラドン濃度は外気の2倍(正確には1.98倍)天井付近のラドン濃度は外気の0.02倍(正確には0.0198倍)になります。
ここで図2Bと図2Cを換気システムを組み合わせると、ラドン濃度が非常に低い部屋が実現できます。
図3はワンルームの部屋を想定しています。左側は廊下・押し入れ・クローゼット・箪笥・スツールなどのある程度大きくて縦長の密閉空間(以下廊下と書きます。)です。
最初に外気は廊下の中央部の高さに給気されます。吸気ポンプの能力を1とします。廊下の上部と下部には排気口があり、上部の排気口はポンプを通って室内につながります。このポンプの能力は0.5です。廊下下部(玄関土間)の排気口と部屋下部の排気口からは室外へ排気されます。2ヶ所の排気はまとめて1本の排気パイプにすることもできます。その場合吸気パイプと排気パイプを密接させて熱交換させることも可能です。
図3では廊下下部のラドン濃度は屋外の2倍、廊下上部のラドン屋外は外界の1/50、そして主に使用する室内床付近のラドン濃度も屋外の1/50、室内天井付近のラドン濃度は屋外の1/5000となります。
このような部屋で暮らせば肺がん死者数が1年間で人口1億人当たり120人になります。
また室内天井付近の極めて綺麗な空気を台所や食堂に流せば、食事時に食品表面に付着してあるいは水に溶けて消化器官に入る放射性物質ポロニウムを大幅に減らすことができます。